地域における真のチーム医療とは(訪問看護師:野口 恵美さん)

限られた時間の中で、できる限りのことを患者さんにしてあげたい

野口さんのお仕事について教えてください。

ご自宅で療養されている患者さんの元へ直接うかがい、看護師としてのケアとサポートに当たっています。患者数は、営業所全体で80名ほど。患者さんの状態や状況によって訪問頻度も変わってくるので、一日で5,6件の訪問といったところでしょうか。
移動は基本的に自転車です。雨の日も風の日も、暑い日も寒い日も、よっぽどのことがない限りは患者さんの元へ訪問しています。

野口さんが訪問看護師を始められてからの10年、患者さんの置かれている環境の変化などは感じますか?

20分、30分、60分、90分と利用時間が設定されているのですが、当営業所では30分利用の方が増えてきていますね。つまり、それだけ経済的に厳しい方が増えているということです。患者さんからしてみれば、ご飯やトイレのお手伝いなど、生活に欠かせない部分をヘルパーさんにお願いして、余った部分を訪問看護師に頼むので、経済的に余裕がなくなれば利用時間が短くなるのは当然かもしれません。

ただ一方で、訪問看護師からすれば30分では足りないと感じる場面は多々あります。本当はもっとお身体をきれいにしてあげたかったとか、リハビリのお手伝いをしたかったとか、訪問を終えた後に歯がゆさが残ることが増えましたね。

心がつながれば、患者さんのためにできることは増えていく

薬剤師のサポートがあれば、限られた時間をもっと有効に使うことができますよね?

それはもう、サポートしてくださるととても助かりますね。私たちはお薬の専門家ではないので、お薬カレンダーにセットするだけで30分かかってしまうこともありますから。また、間違いは絶対に許されませんので、お薬をセットしている間、ついつい寡黙になってしまうんです。本来なら患者さんとコミュニケーションを取りながらセットするべきなのに。

お薬の配達をしてくださる薬剤師の方はいらっしゃいます。そこをもう一歩踏み込んで、お薬のセットだけでもしてくださったらと思うことは確かにありますね。ただ、お互いにさまざまな事情を抱えていて、できることとできないことがあるのは理解しています。
ですから、お互いを知ることから始めていけたらいいですよね。電話やファックスだけのコミュニケーションではなく、ケアマネージャーさん主導のカンファレンスに薬剤師さんにも出席してもらって、まずはお互いの顔を知る。顔が分かるだけでも、心の距離は近づくと思うんですよ。そうなれば、私たちは薬剤師さんが抱えられているご事情を理解できるようになるでしょうし、頼み事や相談事もお互いにしやすくなるはずですから。

調剤薬局の薬剤師に求めることは何ですか?

城南医薬さんの場合、すでに取り組んでいらっしゃると思いますが、やはりお薬を渡すだけでなくコミュニケーションを取ってほしいです。
在宅患者さんの場合、薬局までお薬を取りにいくのはご家族の方がほとんどですよね。聞いた話では、お薬を待つ間、待合室の椅子に座ったまま眠ってしまう方も多いそうです。それほど介護者の方はお疲れになられているんです。ですから、ぜひ「ご無理をなさらないでください」と、ひと言かけていただきたい。そして、宅配が可能ならできる限り案内もしていただきたいです。
ほんの少しの心配りが、どれほど介護者の方を勇気づけられるか。私たちは毎日、たくさんの患者さんのご自宅にうかがっているので、介護者の方の苦労もよく分かるんです。

日々の暮らしを知り、その上でできることを考えてほしい

薬剤師との関わりの中で、印象的なエピソードがあれば教えてください。

何年か前、末期がんを患っていた患者さんがいたのですが、独居である上にご自宅に電話もなかったので、一日に二度、訪問するようにしていました。痛みがなかなか治まらず、薬は徐々に強いものへと変わっていきました。劇薬と呼ばれる薬は、管理も徹底しなければなりません。そうした状況の中、患者さんのことを心配して、毎日のように様子を見に来てくださったある薬剤師さんがいました。お薬のチェックも一緒にしてくださり、本当に心強く感じました。その薬剤師さんには、今でも感謝しています。

最後に、これから薬剤師として活躍される学生さんにメッセージをお願いします!

在宅の患者さんの数は増えつつある中、薬剤師さんも在宅訪問の機会が増えてくると思います。そのとき、ぜひ患者さんやご家族が置かれている実情を知る努力をしてください。訪問でご自宅までうかがったときも、ただお薬をお渡しするだけでなく、ご家族の表情、玄関先のにおいやお手入れ具合を注意して見てほしいですね。患者さんや介護に当たるご家族の日々の暮らしを知れば、自分のすべきことが分かってくるはずです。
これからの皆さんのご活躍に期待しています!

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